2018年6月18日(月)日本経済新聞 春秋
今年は井伏鱒二の生誕120年、没後25年にあたる。95歳の生涯に1600編を超す詩、小説、随筆を残した。これに新たな一編が加わった。「早稲田文学」の初夏号に、全編未収録の短篇小説「饒舌(じょうぜつ)老人と語る」が載った。驚いたのは本作が中国で発見されたことだ。
第2次世界大戦末期。中国・上海で「大陸」という日本語の月刊総合誌が創刊された。当局の許可を得て、在留邦人に政治、経済、文化の情報を伝える、いわゆる「国策雑誌」である。その1944年12月号に、幻の井伏作品が収められていた。北京外国語大学の日本近代文学研究者が、中国国家図書館で発見したという。
「必死必中」「一億抜刀米英殲滅(せんめつ)」……。雑誌には、日本企業の勇ましい広告文が躍る。座談会には軍、警察、大使館の幹部らが登場し、「思想戦の有力な戦士になって頂く」などと発言している。時局への協力を旨とする翼賛体制メディアに、井伏はいったいどんな小説を寄稿したのか。一読していただくしかあるまい。
はっきりしているのは、権力におもねらず戦時下の空気に距離を置いていることだ。得意の戯画化というオブラートに包んではいるが。眼鏡のふくよかな温顔に宿る、文士の気骨を伝えてくれる。戦後の名作「かきつばた」や「黒い雨」に連なる滋味豊かな作品を発掘してくれた中国の研究者の尽力に、心から感謝したい。
2018年6月18日(月)日本経済新聞 春秋
井伏 鱒二(いぶせ ますじ、1898年(明治31年)2月15日 - 1993年(平成5年)7月10日)は、日本の小説家。本名は井伏 滿壽二(いぶし ますじ)。広島県安那郡加茂村(現・福山市)生まれ。筆名は釣り好きだったことによる。
おもねる
人の気に入るように振る舞う。へつらう。「上役に―・る」
気骨
自分の信念を守って、どんな障害にも屈服しない強い意気。「
気骨 のある若者」
滋味(じみ)
栄養豊富でうまい味。ゆっくり味わうことで醸し出される味や雰囲気。持ち味がにじみ出ることによって感じるおいしさ。
カキツバタは湿地に群生し、5月から6月にかけて紫色の花を付ける。内花被片が細く直立し、外花被片(前面に垂れ下がった花びら)の中央部に白ないし淡黄色の斑紋があることなどを特徴とする。
戯画化(ぎがか)
[名](スル)物事をこっけいに、また風刺的に描き出すこと。おかしく皮肉なとらえ方をすること。「政界を
戯画化 して描く」
読むの一苦労だな。。。
1993年まで生きていたというと、最近のようだが没後25年なんだな。
生まれてるな、俺。25年か、近いようで遠い過去だな。