大嫌いになりそうな大好きな和食屋さん
大嫌いになってしまいそうだ。
たまにランチで訪れる美味しい和食屋さんがある。
和食屋さんというより、小料理屋、割烹料理屋さんと呼んだ方が相応しいかもしれない。
夜はとても高く、自分なんかが気安く使えるお店ではなかった。
いや、高くても好きになったお店であれば、背伸びをしてでも夜にお邪魔するべきだったかもしれない。いや、するべきだった。
ランチに訪れた人間は、皆がもっとそうするべきだったのだ。
ランチは1,000円で食べることができる。
毎日2〜3種類くらい用意されていて、天ぷら定食や海鮮丼、刺身定食、美味しい魚の塩焼き定食など、どれも絶品だ。これが本当に旨い。このランチにありつけた日には、幸せな午後を迎えることができた。
だから、私は仕事で近くを訪れると必ずその店で昼食をとることにしていた。
店の前には本日のランチメニューといった形で、看板が出ている。
その看板を見ると、わざわざ地下の店の入り口まで降りなくても、その日のメニューがわかる仕組みになっていた。
ある時、久々に店を訪れると外看板にメニューが3種類書かれていた。
それだけなら良いのだが、なんと金額も3種類になっていた。
ちょうどこんな具合だ。
・A定食・・・1,000円
・B定食・・・1,200円
・C定食・・・1,500円
値上がりしていた。
コスパが非常に良い、というのも大好きな理由のひとつだった。
高くて美味しいのでは、当たり前になってしまうじゃないか。
C定食だからといって、小鉢が増えたわけでもなかった。今までのメニューから原価の高いメニューを値上げした感じだ。
つまり、A定食のクオリティも特段下がったというわけではなかった。
ただ、お刺身なり、原価の高いものはBやC定食扱いになってしまったというわけだ。
でも、やはり美味しい。美味しさは変わらない。
コスパ重視で、私は近くを訪れると1,000円のA定食を注文し続けた。
どうか、ケチな男とは言わないで欲しい。
昔からそうだったが、ある定食が売り切れになると、外の看板に「売り切れのシール」を女将さんが貼りに来ていた。
今では、やはり、一番安い1,000円のA定食が断トツで人気だ。
12:37過ぎには、外看板のA定食の上に、必ずといっていい程「売切れシール」が貼られていた。
打合せが長引き急いで店に向かった。そのシールがすでに貼られていた。私はBとC定食のメニューと値段を見て、少し考えてから違う店に入った。
まだ、話は終わらない。
ある時、12:45位だろうか。
ダメ元で店の前を通りかかると、どのメニューにも「売切れシール」が貼られていなかった。「もうこんな時間なのに・・・、ラッキー♪」と思い、階段を駆け下りてお店に入った。
すると女将さんが、「すみません〜、1,000円のA定食は終わってしまって・・・」と、申し訳なさそうに言ってきた。
一瞬躊躇した。
ただ、店に入ってしまったし、ここで引き下がるのも格好がつかない。大の大人が「じゃあ、やめときます」と言うのははばかられた。
平気なそぶりを見せ、カウンターに座った。
まあ、別に1,000円のランチが1,200円になろうが、1,500円になろうが払えない額ではない。この時は本当にA定食が食べたっかったわけだが、BもC定食も美味いのは約束されている。
たまには豪華ランチもいいな〜と、幸せな気持ちで箸が進んだ。
これから起こることも知らずに・・・。
それから5分後くらいだろうか。
常連さんらしき、かっぷくの良いおじさんが入ってきた。
「A定食〜!」と注文すると、また女将が出てきて「○○さん、すみません〜、売切れちゃって〜」 と顔を歪めた。
おじさんは「そうか。・・・じゃあ、B定食!」とオーダー。
また、その数分後、馴染みらしい着物を着た年配の女性が入ってきた。
A定食を注文すると、また女将が出てきて申し訳なさそうに売り切れの旨を伝える。着物の女性は少し残念そうに、1,200円のB定食を注文した。
おや⁉︎
おやおや⁉︎
13時も過ぎたし、店内はそこまで混んでいない。
なぜ、女将は外看板の1,000円のA定食に「売切れシール」を貼りに行かないのだろうか。以前ならスキを見て、すぐに「売切れシール」を貼りに走っていたのに・・・。
その後も何人か、お客が入ってきて同様のことが繰り返された。
BやC定食の材料が余ってしまうのか?
少しでも利益を上げたいのか?
ランチしか行かない人間は、もっと夜に足を運ぶべきだったかもしれない。
嘘だと信じたい。
俺の勘違いだったと信じたい。
嫌いになってしまいそうだ。
今週のお題「恋バナ」